ナナン

ナナの声をきく者 ナナの目でみる者とは?新しい神話が紡がれる――    〜2006/10/5〜11/23*全50話〜

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潜望鏡

 帰りは早かった。
 みるみるうちに石の入り口まで帰ってくるとスナイはうれしそうに言った。
『家でお茶を飲んでください。父や母も待ってます。』
 わたしたちは午後の日差しあふれる庭からまたさっきのリビングにもどってきてソファーにもたれこんだ。
『おかえりなさい。』
 レーネンとワシリーの相変わらずの笑顔があった。
 だがわたしもイサクもまるで登る前と別のところに来た様な感覚でいた。
 まるで2、3日経ったようだ。
 そこは変わっていない。変わったのはわたしたちの方なのだ。

『いい登りをしてきたようだね。』
 レーネンは読んでいた新聞をたたむと微笑みをたたえて言った。
『今夜は家に泊まってくださいな。いたいだけいてくださっていいのよ。』
 とワシリー。
『そうだよ。そうして。』とスナイ。
「どうする?」
 とふたりで顔を見合わせて1、2分考えた。
『今回は本当は今日までの取材の予定なんです。』
『これは腰をすえてじっくり時間をつくったほうがいいみたいなのでちゃんとプランニングして仕事を片付けてきます。近いうちにすぐまたもどって来ます。』
 イサクは現実的に答えた。
 わたしは付け足した。
『どっちみち今日はもう夕方で飛行機に間に合わないみたいだから泊めてくださいます?』
『オーケー!』
 ウインクしてワシリーは腕をまくった。
『自慢の料理を食べてもらうわね。』
 
 わたしとイサクは荷物を取りに雑貨屋にもどった。
 エスターがレジにいた。
『ハーイ!そうそう、うちは夕食はやってないのでマーシのとこで食べてもらうんだけどいい?』
『ああ、ルカックさんのとこに泊まることになったんです。荷物をとりにきました。』
 口笛を吹いてエスターはうなずいた。
『よかったわね。ルカック家のお客人てわけね。ワシリーとはお友達なの。よろしくいってちょうだい。』
『わかりました。ゆうべはありがとう。』
 そしてパブのゴジィのところにも寄る。
『そうかい。そりゃよかった。ゆっくりしていきなよ。』
『ほんとにどうもありがとう。マーシも。紹介してくださって感謝してます。』
『あたしたちこそうれしいわ。お役に立てて。”ナナ”はあたしたちの誇りなの。いいお仕事してね。』
 車に乗り込むとイサクが面白そうに言った。
『まさかこんなことになるとはなア。』
『フフフフ。人生これだからやめられないわね・・。』
 わたしたちはその晩、ゆっくりとワシリーの心尽しを味わってナナマウンテンの余韻を楽しんだ。
 笑い声の絶えない食卓だった。
 
 帰国する飛行機の中でわたしは窓から雲海を見下ろす。
 飛行機に乗るたびに思うのだが、この高度からの眺めは天界のようだ。
 まるで天使になったかのようなこの視界を手にしたことは速く目的地に着くことよりもじつはすごいことなのだ、ということにひとはもっと気づいてもよさそうなものだといつも思う。
 これって奇跡のひとつじゃないだろうか。これが当たり前に思えるとしたらひともずいぶん鈍感になってしまったものだ。
(そうでしょう?)
 と、わたしはわたしとともにある様々なエネルギーに語りかけた。
 彼等との営みの中でわたしは潜望鏡としてこの瞳を使って映像を結んでせいいっぱい楽しむ係。そんな気分になっていた。
 
 日本に着くとさっそく大学にもどって研究室で今回の調査のまとめに入った。
 スナイのところはインターネットというものに縁のない生活をしていたが、意味深なことをいっていた。
『僕らはもともとネットワークはもってたよ。インターナショナルな。なにもいまさら機械を使う必要もないんだ。やがてそうなるさ。みんな。』
 その通り、わたしは時々スナイの夢をみてスナイと語っている。彼は的確にわたしの問いに答え、電話すら必要を感じなかった。
「ナナ、3月ならなんとかなりそうだ。行くか?」
「もちろん!」
 わたしたちは時間のやりくりをつけて今度はプライベートでスナイのところに向かうことにした。
 研究室で”ナナ”についての調査を提案したが、いまひとつ教授も同僚も反応はにぶかった。
 もう少し下準備をすすめる必要があった。
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