ナナン

ナナの声をきく者 ナナの目でみる者とは?新しい神話が紡がれる――    〜2006/10/5〜11/23*全50話〜

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スサノオノミコト

 5月。
 羽田から出雲行きの飛行機に乗った。横にはイサクもいた。
 マリさんとは出雲空港で待ち合わせている。
 そこからはレンタカーで出雲大社に向かう。
 イサクとマリさんは出会ったとたんすぐ打ち解けてまるでわたしたちは10年来の友人のように旅をスタートさせた。
 イサクの運転で出雲空港から日本海側に向かってしばらくいくと、スサノオノミコトの八岐大蛇退治の伝説で知られる斐伊川を越す。突き当たって国道431号にのればあとは出雲大社までまっすぐだ。
 わたしは色を感じていた。
 清潔で素朴なきなり色。
 なんだろうこのなつかしさと落ち着きは。
 伊勢には憧れに近いときめきがあった。五月の藍色の風のようなきらめく澄んだ空気があった。
 この地はまたひと味違う。
 まるで帰って来たようになつかしい。自分のルーツはまるでこちらであるかのようなぬくもりを感じさせられる。思っていたよりもずっと明るい印象がした。
 
 出雲大社の大きな駐車場に車を滑り込ませる。車をそこに置いて、わたしたちはマリさんに導かれて正面まで廻りこんだ。
 やはり巨大な鳥居が出迎えてくれる。
「大きい・・・。」
 わたしがつぶやいたのは鳥居の大きさのことではなかった。この聖地の大きさがもうすでにひしひしとしみてきていた。
 マリさんはそのことを了解しているといったようにうなずいていた。
 鳥居で写真を撮ろうとすると、わたしのカメラのシャッターは下りなくなった。
 伊勢でもそうだった。
「電気系統が反応するのかしらね?」
 そういって笑ってマリさんはかるくやりすごした。
 これだけこの大きさを感じたりもするのだから”感電”でもするのかもしれない。わたしも笑った。
 かわりに写真はイサクに頼むことにした。
 海のそばであることを感じさせる松並木の参道を本殿へと辿り始める。
 ゆるやかな坂を一度下るようになっている。
 手と口をすすぎ、本殿の敷地へと入った。
 
 式年遷宮はしていないので、出雲大社はしっくりと深く時の色が染みていた。
 背後に緑を背負っているが、やはりどこかこの地はわたしには明るく感じられる。
 大国主命の祀られる本殿に参るため、巨大なしめ縄の掲げられた拝殿の真裏へと廻った。
 本殿の前に近年発掘された巨大神殿の柱の根元が工事現場さながら掘り出されたままの風情でさらされていた。
 本殿とこちらを区切る門の前に立つとわたしは深々とこころを垂れてごあいさつをした。
 手を合わせていると、この土地に着いた時から感じていたきなり色の穏やかであたたかみのあるなにかに包まれてくる。それに預けるとじんわりと涙がにじんできた。
 まるで学校の卒業式で感じるような、送りだされた者の持つ少しせつないようなしかし晴れ晴れとしたなつかしさに浸っていた。
(ただいま。そして、ありがとうございます。)
 なぜかそういう心境だった。
 マリさんはすでに参拝を終えていてその目はどこか宙を舞い、わたしと違ってどこかここにこころがないのが感じられた。
 他に気持ちが飛んでいるようだった。
 珍しく少し落ち着きなくそそくさと彼女はわたしたちをうながした。
「この裏にスサノオノミコトが祀られてます。」
 そう言ったきり言葉がない。
 わたしたちは自然と言葉少なく静かに本殿のさらに裏側へと足を進めていった。
 その歩みはちょうど本殿を真横から仰ぐ格好になる。伊勢の正殿の白木の美しさとはまた違うここの本殿の歴史の刻みようにもこころ打たれながら、本殿の真裏にあたるこじんまりとしたお社のところまで来た。
 風雨になじんで来たほの暗いそれは、木立の中の高みにひっそりと影のように立ち尽していた。
 観光客もあまり来ない。
 しかし、あきらかにマリさんはここが目的だった。伊勢で見なかったような引き締まった表情をして、彼女は念入りに祈り始めた。
 わたしたちも拝んだ。
 わたしたちが済んでも、マリさんは熱心に祈りつづけている。
 確かにここは今までわたしが感じていたあの色はない。
 なにかもっと重厚なものがある。
 本殿とは比べようもないほどお社の大きさもおそらくお祀りのされかたも小さいであろうに、なんともいえない雰囲気があった。
 ずいぶんたってマリさんは深々と礼をしてわたしたちの方へと下りて来た。
 さっきとは違ってかろやかな顔をして、スポーツマンのようにかるくにこっと笑った。
 そしてふっと振り返ってお社のそばの木立に目を走らすとこっちを向いて言った。
「あの辺りに立ってみて。」
「え?」
 分からないなりにもわたしとイサクは素直に公園のような小さな仕切りを超えてその木立の空間に立った。
(う・・・。)
 意味が分かった。
 まっすぐ立っていられないような、なにかごうごうたるものを感じる。
 お社では感じられなかったが、このなんでもない空間にこのゆらめく大きな流れがある。
 その大きさは本殿をしのぐばかりかその濃さはなんとも底知れぬものを感じさせた。
(スサノオノミコト・・・。)
 ふらあっとして外へ出た。
 イサクも一緒に出て来た。
「なんだか頭がぎゅうっとなった。」
 イサクがコメントした。
 わたしは息をつくとなんとなくそこへしゃがみこんでしまった。
「すごいでしょう?」
「ええ。なんでまたこんなところが・・。」
 マリさんはそれには答えずに言った。
「スサノオノミコトはとっても聡明。」
 わたしたちは二の句がつげず、ただその言葉が頭に響いてくるにまかせていた。
 なんだかショックを受けていた。
 分からないなりに、スサノオノミコトというのはとても濃くて深くて大きいということだけはからだに記憶された。
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