ナナン

ナナの声をきく者 ナナの目でみる者とは?新しい神話が紡がれる――    〜2006/10/5〜11/23*全50話〜

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 ”ナナ”の山をぐるっとまわりこんだちょうど反対側の森の中にスナイの屋敷はあった。
 ルカック家はアメリカにしては珍しくいつから続くのかわからないくらい古い家でこの町の重鎮だった。一族には名士も数多く出て、なかには上院議員になったものもいる、とイサクはゴジィから情報を仕入れていた。
 しかし、「当主」となるものは必ずナナンなのだ、とゴジィは尊敬のこもったまなざしをむけていたそうだ。
 入り口にはなんの木だろうふたかかえもありそうな大木が門がわりに繁っていて、車はそこから並木道を玄関まですべっていった。
 2階の窓からスナイが手を振っていた。
 玄関が開いて金髪の上品な女性が微笑んだ。
『ようこそいらっしゃいました。スナイの母のワシリーです。どうぞお入りになって。』
『ナナ!どう?今日の気分は?』
 2階から降りてきたスナイは機嫌よく快活に笑った。
『あなたに会いたかった。ゆうべは不思議な夢をみて。』
 ふふふふ、と笑うとスナイは手招きした。『座ってはなそう。』
 居心地のいいリビングに案内され、ワシリーは香りのいい紅茶を運んできた。
『御家族はほかには?』
『兄がひとり、妹ひとりいるけど町を出て仕事についたり学校の寮に入ったりで今は僕ひとり。父は出かけてるけどじきにもどります。ナナに会いたいらしい。』
『あら、お兄さんもいるの?それじゃナナンなのは・・。』
『そう。なんで僕が継いだかって顔だね。兄はナナンではないんです。』
『そう。ところであなたはわたしを夢にみたっていってたけど、夢っていうのはなにか不思議な世界につながるようなことはあるの?』
『ああ、行ってきたんだね?』
 スナイはこともなげに答えた。
『えっ?もしかして知ってるの?あれはなに?』
「ちょっと待ってなにをみたって?」
「ああ、ごめん。じつはね。」
 わたしはかいつまんでイサクにもわかるように夢のはなしをした。
 ワシリーは紅茶におかわりをついだ。
『僕は小さい頃からそこへよく行ってたので、ひとが行ったことがないというのをきいて驚いたんだ。ナナンはそこを”源”と呼んでいます。』
『あれくらいなんの心配もなく満たされた想いというのはいまだかつて経験したことがないんだけど。』
『うん。でもじつはみんな経験しているんだ。』
『えっ?』
『忘れているだけ。そこから来てそこへ向かっているってことを。』
『みんなって世界中のみんなってこと?』
『そうみんな。』
 イサクが口をはさんだ。
『それはこの町の君の一族だけに伝わる神話という意味ではなくてもっとひろい意味?』
『神話をファンタジーだと思っている?』
『いや、おとぎばなしだとは思わないよ。その文化が生み出す智慧と示唆に富んだ壮大な遺産だ。』
『神話は昔話でもなく作り物でもないよ。メタファーではあるけれど今に完全にシンクロした地図なんだ。』
 そう語るとスナイは立ち上がって暖炉の上の”ナナ”の山の写真を手にとった。
『この山に”ナナ”が降りたのは今から二千年以上もっと前だけど、今ありありといきいきとここに存在しています。そして”ナナ”を忘れさせないためにナナンを”ナナ”自身が選びます。そして遠くはなれた東の国の女性にナナと名をつけてこうして呼び寄せたりもします。ふふふふ。』
 最後はちょっと冗談のように笑いながらスナイはそんなことを口にした。
『呼び寄せた?』
『長く守ってきた神髄をそろそろ開けはなそうという時期らしいです。それには違う文化圏の一見第三者がかかわったほうが説得力があるでしょう?』
『・・・。』
 あっけにとられてわたしとイサクは返す言葉がなかった。
 ふたりとも同じことを考えていた。
(伝承という文化研究をしているだけなのに、このきゃしゃな赤毛の少年はなにをさせようというんだ?)
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