ナナン

ナナの声をきく者 ナナの目でみる者とは?新しい神話が紡がれる――    〜2006/10/5〜11/23*全50話〜

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バッティ

 翌朝は目覚めると家中に清めの煙りが漂っていた。
 ベッドで起き上がるとすでに感覚がひらいているのを感じた。
(7月7日か・・。日本語でいえばなな並びってやつね。)
 自分で思いついて気に入った。
(なな月なな日に奈々が”ナナ”に会うのか・・。)
 下に降りていくとマリさんとスナイが階段の下で立ち話をしていた。近づいていくと耳慣れない言葉が飛び交っていた。
 ふたりはわたしに気がついて振り返った。
『おはよう。』
『おはよう。今の言葉はなに?』
『わたしが先生に習った言葉とルカックの古い言葉が似ていたのでいろいろ聞いてたのよ。』
『先生って?』
『ハワイの先住民のあるおばあさん。』
『さて、じゃあ僕は準備があるから。』
『今から?じゃ、またあとで。』
 キッチンに行くとワシリーとナキアが朝食の準備をしていた。
 それを手伝いながら聞いた。
『バッティは大丈夫?』
『ああ、彼のパソコンはライナスの毛布なのよ。幸いアキレーが必要なものを持ってたから解決したわ。』
『ライナス?』
『スヌーピーよ。』
 マリさんは笑った。
『バッティはひとりで来たの?』
『お父さんが送ってきたわ。すぐ帰ったけど。ここから車で4時間くらいの町に住んでるの。彼のお母さんがレーネンの妹なんだけど、もう亡くなっててね。お父さんの方はこの町の人じゃないから、忙しい時は祭りは参加しないわ。でもルカック筋だから、バッティは祭りの時くらいは里帰りするのよ。あの調子なんでお友達が少なくて、ネイサン、彼の父親がね、心配してて幼馴染みのスナイに会わせに来るの。心配性なんだけど根はいい子よ。はなしてみてね。』
 わたしたちは祭りの日の朝食を囲んだ。
 祭りが始まるのは夕方からだったが、この日の食事はやはり少し特別なものだった。
 ”ナナ”に一度捧げた地の野菜と太陽が上がる前に汲んだ井戸の水だけだった。
 そして食事をする前に少し黙想して”ナナ”に感謝を捧げてからじっくりと味わうのだ。
 スナイももどってきて一緒に食卓についた。
『バッティ、たしか去年もすごいレポート書いてたよね。』
『レポートって?』
『学校に出すやつですよ。金賞をもらったこともあるんだ。』
『テーマは何?』
『中東における和平の可能性について』
『へえええっ!』
 わたしたちは目を丸くして目の前のマシュマロのようなふわふわした体格の無愛想な男の子を見直した。
 ケンはのけぞったあまりイスから落ちそうになっていた。
『今年はさらに大変って、テーマはなんなの?』
 マリさんがきいた。
『テロに国際社会はどのように対処していくべきか・・。』
『高校生がそんなレポート書くんですか?』
 ケンが心底驚いた風にもらした。わたしたちも同感していた。
『バッティは勉強熱心です。勉強しすぎて心配しすぎるところもあるけど・・。』
『だけど、心配するから失敗も防げるんだよ。なんにも心配しなかったらやり放題じゃないか。』
『うん。そうだね。』
 スナイは優しい目をして受け止めていた。
『たしかにむつかしい問題だよな。”ナナ”は違いを許しあえというけど、実際にひどい目にあった人が憎しみに燃えないでいられるか・・。』
 イサクは遠くを見るような目をして誰にいうともなくつぶやいた。
『そうですよ。オレなんか無理だな。相手に報復したくなるかもな。』
 ケンはそういってちょっとためいきをついた。
 いつもならだれかがそこでこの場を持ち上げることを口にするところだが、ナンネクもレーネンもスナイも黙っていた。
 祭りの朝だというのに、人々は現実の地球の重さをまるでしょい直しているかのように重く沈黙した。
『だけど、』
 その時口をひらいたのはバッティだった。
『人間をあきらめるわけにはいかないよ。』
 その時、水あめのような部屋の空気が少し動いた。にぶく一瞬きらめいたようだった。
 その場所の沈黙の意味が変わった。
 だれもが感じていた。
 バッティはこの言葉を今言うために生まれてきたのだ。
 だれともなく清水の満ちたグラスをとった。
 そして、
『バッティに乾杯!』
 とレーネンは笑って、みんなはバッティにグラスを掲げた。
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