ナナン

ナナの声をきく者 ナナの目でみる者とは?新しい神話が紡がれる――    〜2006/10/5〜11/23*全50話〜

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銀河

 わたしは上昇していた。
 光る青い星をあとにして。
 光速のような速さで星々がすごい勢いで遠ざかっていく。
 銀河が横をすべっていった。
 天の川をすごいいきおいで流れていく。
 はるかかなた幾千劫年の宇宙の果てまで飛ばされたようだった。過去も未来もわたしも人類をもすべて忘れ去るような果てへと来てしまった。
 時間も空間も折りたたまれたそこで、いきなり漆黒の空間に浮いた。それはまるで果てしない深遠というような全き静寂の羊水だった。そのすべてが一瞬のうちに起こった。
 漆黒ではあるけれど、闇の恐怖はなかった。
 天も地もなく、時も音もなかった。
 見ている自分も見られている自分もなかった。
 そして一瞬ののち空間全体がものすごい光とともにバーンという大音響ではじけた。経験したことのない想像もつかないような表現することを超えた大光だった。
 それはさっきの10000倍以上の高速で四方八方へと膨張しつづけやがて時も忘れた頃、ゆったりとうずを巻き出した。
 わたしはそのうずだった。

 ・・・・・。
《・・・マワレ オドレ ヒカレ》
 わたしはわたしを回す”手”を感じた。
それはまるでこの宇宙のスープを見えない手でかき混ぜるような”働き”だった。
 それには意志があり、その想いによってうずの向きがそうなったことを感じた。
 わたしは自分のからだが銀河の裳裾を引いていることに気がついた。
 そのからだに星々が生まれていることにも。
 ゆったりと回る。
 それはおだやかな営みで、わたしは心地よくその流れに身を任せている。
 それは億年、光年をかるがると超える雄大な流れだった。
 たゆたう意識になにかがかぶさってきた。
 鳥のようなささやき。
 きいたことのある声。
[ナナ、ひとつの時代が終わろうとしている。夜明けがくる。始めることを始めなさい。始まりが始まるのだ。]
(始まり?)
[もう始まっている。脱皮の時が。なじんだ服は捨てがたいが、捨てさせられるのか捨てるのか自分で選ぶ時が来る。そのために今から今出来ることを始めるのです。]
(それはなんですか?いったい何をすれば?)
[もう、知っている。]
 と告げてその声は遠ざかった。入れ替わりにスナイのうたがきこえてきた。
 ナンネクの声も重なっていた。
 それはえもいわれぬハーモニーを奏で、空間全体がその音に満たされ反響していた。
 わたしが”帰ってきた”ちょうどに、そのうたは余韻をもってエンディングを迎えていた。
 みな頬を紅潮させて静かに興奮している。
 スナイがかたわらのわたしを確かめるように振り返ってうなずくと、もう一度深々とナナの石を拝んでから静かにそっと立ち上がった。
 自分のたいまつをとると、ゆっくりと元来た道へと戻りはじめる。
 わたしたちもそうして山を下り始めた。
 ホキパニの丘ではずっとさっきのたいまつの動きは続いている。わたしたちのたいまつが下りてくるまでそうしているのだろう。
 だれもなにも語らなかったが、それぞれの上気した顔が雄弁に共有した祭りを物語っていた。
 下りの道の早いこと。行きが二日もかかったように思えるのに、帰りはまるで5分のようだった。
 東屋のかがり火の見える門まで下ってスナイがほっとしたようなあけっぴろげな笑顔になって振り返った。
『お祭りおめでとう!』
 そういってわたしに抱きつく。
『?おめでとう!』
『そういうあいさつをするのかい?』
 イサクがきいた。
『ふふ。久しぶりに口がきけてうれしいよ。お役を無事、つとめられた。』
『そうね、お疲れさま。おめでとう!』
 みな、緊張感から解放されて満面の笑顔だった。
『いや〜、よかった!なんだか分からないけど、よかったです!』
 ケンが脳天気に声をあげた。
 スナイはニコニコするとケンに握手を求めてきた。
『ありがとう。あなたのおかげでナナは上昇できました。』
『???えっ?』
『東南のおさえを無事はたしてもらいました。』
『なんのことですか?』
『ナナの右後ろの手薄なところにあなたがちゃんとはいってくれた。とっても無邪気に。だから闇はナナにとりつくしまがなかったのです。高い上昇には深い闇がつきものです。僕も石をはずしたので、すべての闇までは手がまわらなかった。そこにちゃんとあなたがいた。ありがとう。』
『ええっ?おれはただいただけなのに・・。』
 くつくつとスナイは機嫌よく笑った。
『だれだっていつも寸分たがわぬ位置にいるのです。』 
 そしてイサクを振り返るとまた手を出した。
『ありがとう。ナナを守ってくれましたね。あなたの声がなければ、ナナは二度ともどってこれなかった。僕に今日ナナに起きることが何も伝えられなかったのは、全てが揃っていたからなんですね。』
 イサクは照れ臭そうにニヤニヤと笑った。
 それからマリさんの方を向くと、ふたりにしか分からないまなざしを交わし固く握手した。
 ナンネクがつぶやいた。
『わたしにも分かったぞ。あれは銀河だったな。』
 ナキアもうなずいた。
 ワシリーがあかるく先導した。
『さあ!もどってパーティーよ!』
 その夜は町の人々もやってきてつきることのないパーティーがつづいた。
 人々は祭りに酔いしれ底抜けに明るく歌い踊った。
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