ナナン

ナナの声をきく者 ナナの目でみる者とは?新しい神話が紡がれる――    〜2006/10/5〜11/23*全50話〜

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グレー

 翌朝目を覚ますとわたしは自分の何かが大きく変わったのを感じた。
 胸がさやさやとさわやかにかるく、ひたひたとしみてくる泉のようなものが湧いているのだ。
 ベッドから下りるとわたしは部屋の鏡に映った自分の顔に目を止めた。
 一瞬それが誰なのか分からなかった。
 誰かに似ていると思って、気がついた。
 目が底抜けに澄んでいる。
 それはスナイであり、マリさんだった。
[もう、知っている]
“ナナ”の言葉がよみがえった。
 突き上げるような衝動が起こってわたしは着替えもそこそこに階下へと駆け下った。
 明け方までつづいたパーティーのせいで、陽が高くなった家の中はまだ静かだった。
 だがテラスのテーブルにイサクがひとり、もう起きて両手を頭のうしろに組んで庭をぼんやり眺めていた。
「イサク!日本へ帰るわ!」
「えっ!?」
 振り返ったイサクは目を丸くした。
「あさってまでいるんじゃなかったのか?」
「いのちは使うためにあるのよ。使命ってそういうことなんだわ。今から始めるのよ!」
「なにを始めるって?」
「まずは巡礼をするの。そして日本について本を書くわ。日本がどんなところで世界にとってどんな場所か。あの島で世界の未来の精神のひながたを創れればそれは世界のものになるかもしれない。それはたぶんあの島の古代のこころなのかもしれないけど。」
「??」
 そこまで一気に言って、そして執着のないかるさで笑った。
「大学はどうするんだ?」
「辞める。」
「おい!」
 わたしは身をひるがえすと庭に駆け出した。イサクがあわてて追いかけてくる気配がした。
 わたしは“ナナ”の山への小道を駆けた。夏の陽射しの下、汗が散った。
 子供の頃こうして駆けたことがよくあった。小さな空き地に基地を作った。草いきれが地面からむせかえるようだった。
 あの頃、世界はそこだけだった。
 わたしはこんなところまで来てしまった。そしてあんなところまで行こうとしている。
 東屋まで一気に駆けてきて息が切れてやっと立ち止まった。
 肩を大きく上下させながらそこに立ち尽くす。
 見慣れた人影がそこに座っていた。
『ナンネク、』
 ナンネクはニッと笑った。
『まだみんなは寝てるわ。』
『年寄りはいつまでも寝ておれん。ナナ、あんたは変わったな。』
 そういってナンネクはわたしの目を見た。
『ええ。昨日のお祭りのせいです。日本に帰ります。』
『もう分かったのか?』
『はい。』
『そうか。』
 そういってナンネクはうなずいた。
『あの島はいい島だ。世界はあの島の奥深さにはまだまだ気がついていない。なにより、当の日本人がまだ気がついていない。というより忘れている。白黒の時代にはグレーの価値は分からない。だが、白と黒に分ける時代はやがて終わる。それがおそらく争いがこの世から消えるヒントだ。日本人のあいまいさは実はこれからの世界には生きてくる“価値”かもしれない。あらゆるものがボーダーレスになっていく時代のね。グレーはすべてを飲み込めるふところの深さ、広大さとやわらかさがある。』
『はい。』
 そこへイサクがやってきた。
『やあ、ナンネク。ナナが跳ね出したよ。』
 フフフフと笑うとナンネクは
『おなじグレーでもたしかなうつくしいグレーになりなさい。黒にも白にも近くなれながらそれに染まることなきしなやかで力強いグレーに。それは一見力弱く見えながら、実は声高な強権よりも智慧も力も勇気もいることだ。それとユーモアもね。』
 そういってウインクした。
『さて、そろそろわしの腹の虫も目が覚めたらしい。もどるか。』
 
 屋敷にもどると人の気配がした。
 キッチンでは明るい笑い声と湯気が立っていた。
 遅い朝食のテーブルを囲むと、イサクがみんなに告げた。
『お跳ねさんが帰るって言い出したからオレも帰ろうと思うんだが・・。』
 一瞬の沈黙のあとレーネンとワシリーはうなずいた。
『そうするのがいいのなら。』
 ケンは来る時とはうらはらに
『ええーっ、まだあと2日はいるんじゃなかったんですか?』
 と不満げな声を出した。
 ナキアがものいいたげにスナイのそでを引っぱった。
 スナイが気づいて
『ナナ、帰るのはいいんだけど、ナキアの絵を見ていって欲しい。祭りの絵を描きたいって。帰るのは一日待ってもらえない?』
『いいわ。見たいわ。』
 わたしはナキアに笑いかけた。
 ナキアの顔はぱっと輝いた。
 
 リビングで食後のお茶を飲みながら、スナイと語った。
『この祭りでなにが起きるのか予想もつかなかった。でもまさに“ナナ”の神話の体験をしたわ。あれはでもわたしだけの経験ではないのでしょう?』
『うん。“ぼくら”の共有の体験です。これってひろい意味で言ってるんだけど。』
 うなずいてわたしはつづけた。
『はじめは“ナナ”のことをただ伝えるスピーカーの役割がしごとなんだと思っていたわ。』
 スナイもうなずく。
『それもそうなんだけど、ヤマトタケルが出てきてマリさんに出会って今は思うの。日本人であることで世界に貢献できることがあるのかもしれないって。そこに生まれたのは偶然でもなんでもなくて、それが世界に意味があるからみんなそれぞれのそこに生まれるんじゃないのかしら?』
 ニコッとスナイの顔がほころんだ。
『“ナナ”が言いたいのはこの変動の時代、地に足をつけてそれぞれがそれぞれのそこに咲くという天命を生きるということじゃないのかしら。そのことを実践しながらわたしは“ナナ”のことを伝えていかなくてはならないのよね。アメリカならアメリカの地の意味がある。この星にとっての。そういった土地の“意味”というのを日本というひながたで掘り下げてみる。それは日本に生まれたある使命。』
 スナイはまたかるくうなずいて聞いている。
『人のからだにはいろんな部分があって、この星で例えるとたとえばアメリカは“肝臓”かもしれない。ロシアは“肺”かもしれない。日本は“足の裏”かもしれない。どれも必要だからある。どれもがあつまってひとつの星。わたしたちはそのからだのためにある白血球やリンパ球かもしれないわね。とても小さいけれど、やはりなくてはならない存在。ひとりひとりがこの世界を味わう目的も持ちながら、世界がひとつの生きものとして生きるためのそれぞれの役割も負っているの。』
『でも時々免疫異常を起こして自分で自分を攻撃したりもする。』
 スナイはニッコリ笑って言葉を継いだ。
『そう。それはきっと自分たちのことやここにいる目的を忘れているからなのよ。どこからきてどこへ向かい、今、どこなのか。』
 わたしはスナイの顔をみつめると言った。
『やってみるわ。わたしのやることを。』
『うん。僕はいつもここからナナがナナの最善をつくせることを祈っているよ。僕はナナのこと、姉弟だと思っているからね。』
 そういってスナイはわたしの背中に手をまわし抱き締めた。わたしはスナイのやわらかい赤毛に触れながらそのあたたかいたましいに浸された。

 午後遅くにナキアは思ったより早く絵を仕上げてリビングに持ってきた。
 わたしの前に並べ始めた絵を見て、わたしは驚いた。
『これは、わたしが体験したことだわ!』
 そこには流れ去る天の川やうずを巻く銀河のうつくしい姿が独創的な色使いで描かれていて、そこからは力強く高くひろい波動があふれていた。
『ナキアもいっしょに感じてくれたのね。わたしの目と手になってくれたのね。ありがとう!』
 そういってナキアを抱き寄せるとナキアはきゃっといって笑った。
『日本に持って帰って。“ナナ祭”の記念に。』
 スナイはナキアの気持ちを読み取るとそうわたしに告げた。
『ありがとう!そうする。』
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