ナナン

ナナの声をきく者 ナナの目でみる者とは?新しい神話が紡がれる――    〜2006/10/5〜11/23*全50話〜

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一陣の風

 また夢を見た。
 夜空のひろがるそこは、遠く火山の噴火のような赤い火の列が見えた。
 創世期の地球のようだと想った。
 なにかすがるような想いでそこにたたずむヤマトタケルに対面した。
「・・・わたしにはなんの力もありません。いったいどうすれば。こんなに様々なことを知っても知れば知る程わたしの中の小さなこどもがだだをこねます。なにもしたくない。前へ進むのがこわいって。自分をはみだすような大きなエゴ坊主がわたしの邪魔をして地団駄を踏むのです。こんなことでいったいなにが出来るっていうんでしょう?」
 ヤマトタケルはいつの間にか手にしていた素晴らしく存在感のある剣を、目にも止まらぬ速さで大きく振りかぶるとぴたっとその切っ先をわたしの眉間ぎりぎりに止めた。
 あまりのすばやさにわたしは息を飲んだ。
(ああ・・向けられても文句のいえない情けなさを全開してしまった・・。)
 冷や汗がひとつ落ちた。
 ヤマトタケルは表情をひとつも変えずにまた手品のような手付きで剣を放ってその向きを変えた。
 自分はそのきっ先の方を上手に掴むと持ち手をわたしに向けた。
 わたしはあっけにとられたが、どきどきしながらその持ち手にそっと手を伸ばした。
 それは美しい溝の彫られた頑丈な剣で、うっすらと青い光を放っていた。
 その剣を手にすることでヤマトタケルの意図は読み取れた。
(わたしの巨大なエゴが騒いだら、これで鎮めるのですね。これは外の敵に向けられるものではない。わたしの魔を鎮めるためのもの。) 
 剣から目を離してヤマトタケルを見ると、わたしの背後を遠く見やっていた。
 振り返ると、地平線ははるかにあかるく明けてこようとしていた。

 翌日昼過ぎ、わたしはみんなと一緒に家を出るとイサクやケンと大学に向かった。
 イサクはあきらめたように何も言わなかった。
 大学に着くと、教授は神保町に出かけているとのことだった。
 教授がよく行く書店があるのでわたしはあとを追うように大学を出た。
 少し距離があったが歩くことにした。
 そういう気分だった。
 わたしは歩くことでよく自分を整理出来ることがある。
 この日は雨が降っていた。
 傘にあたる雨音を自分にしみこませながらゆるやかな坂を武道館の方へ下っていった。
 どうすることがいいのか、頭では分からないが胸が先へ行く。
 自分にも止められない衝動に突き動かされている。それを味わいながら濡れた路面を一歩一歩確かめるように歩いていった。
 信号待ちで立ち止まった。心ここにあらずで自分が傘を持って立っている意識もどこかへいっていたのだろう、傘を持つ手がゆるんでいたことも気づかなかった。
 一陣の風が吹いた。
 それは奪われて飛んだ。
 そこへ絶妙なタイミングで黒塗りの乗用車が滑り込んで、傘はあっという間に原形を留めない状態に無惨にひかれてしまった。
「あっ!」
 一連のことにわたしはただぼうぜんと足がすくんだようにそこにつっ立ったままでいるしかなかった。
 傘をひいた車から50代の紳士が降り立った。
「すみません。あなたのですか?」
「ええ・・・。」
「申し訳有りません。先を急いでいるのでわたしの傘をお使いください。わたしはこういう者です。傘は弁償させていただきます。これくらいあれば足りるでしょうか?」
「いえ、弁償だなんて、そんなに要りません。安いものですから。」
「お気に入りのなら金額ではないでしょう?とっておいてください。お詫びのしるしです。」
 そういって頭を下げるとその人は傘と名刺と紙幣をわたしに握らせてすばやく車に乗り込んだ。
 そして行ってしまった。
 男物の傘をささずに突っ立っているわたしを、通りすがりの人がけげんな顔をして見ているのに気づき、我に返った。
 そしていい音のする上等な傘をパチンと開くと、物想いにふけりながら歩き、なかば夢遊病者のごとく神保町にたどりついた。
 教授は案の定いつもの書店におり、これもいつも寄る珈琲店に場所を移してわたしの「辞めたい」というはなしを聞いてくれた。
 何度も慰留されたがわたしはまるで小さな子供がだだをこねるように頑としてきかなかった。
 あきれたのかため息をひとつつくと、教授はいたわるような口調で言った。
「だいじょうぶか?なんだか前の君と違うぞ?」
「ハイ。そうなんです。だから、です。御迷惑はなるべくおかけしないように仕事はちゃんと整理してキリをつけます。申し訳ありません・・・。」
 アメリカから帰ったばかりで疲れているんだ、今日はもう帰りなさい、とすすめられてわたしは素直にそのまま地下鉄に乗った。
 じんじんとはれるような頭を抱えたまま昼間の空いた車内でシートに身を預けた。無意識にバッグから傘の紳士の名刺を取り出した。
 ぼうっとそれを眺めた。
(新空社 出版部部長 本道正近・・・。出版関係の人なのか・・・。)
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