ナナン

ナナの声をきく者 ナナの目でみる者とは?新しい神話が紡がれる――    〜2006/10/5〜11/23*全50話〜

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青光剣

 その週末にわたしは富士を望む朝霧高原に足をのばした。
 東京側は観光地化が激しいので反対に廻り込んだのだ。着いたのは午後で、ただ富士を眺めて宿に入った。今回は誰も都合が合わず、たったひとりだった。
 
 宿で夜を迎えてわたしは床の中でもんもんとし始めた。
(ここがどういうところかはもうわたしの奥底ではわかっているし、何をするべきかもわかっている、なのに方法がわからない・・。)
 堂々巡りを始めると、またあのエゴがささやき始めるのだった。
(なにもしなくっても誰にもわからないさ。今まで通り平穏無事にやってけばいいことじゃないか。きれいな富士山を観光しておいしいものを食べて帰ればいいことだ・・。)
 それは部屋いっぱいにひろがってわたしを占拠しようとしてくる。あきらめたように笑う別のわたしもいる。
(あああああ!助けて!いったいなんなんだ!このでっかいこどものお化けのような自分は!)
 たまらなくなってふとんの上に起き直った。
(助けて!放っといて!わたしをひとりにして!)
 そうこころで叫んでふっと気づいた。
(もしかしたら、“わたし以外のわたし”もわたしは背負っている?)
 少し我に返ると、
(応援する存在があるくらいなら、そうでない存在があるのも道理。)
 頭が少し冴えてきた。気を取り直すと静かに下腹に力を込めた。
(あれはわたしでもあるけれどそのわたしのエゴにささやきかけ、引きずり育てるものもあるとしたら・・。)
 あの闇を思い出した。ネックレスにしたナキアの翡翠をにぎりしめた。
 わたしはゆっくり立ち上がると、ヤマトタケルに授かった剣を意識した。すぐ自分の腰に感じ、手をそこへ伸ばすとその剣をしっかりつかんで静かに抜いた。
 わたしのものとなったその剣はかるがるとわたしの手になじんで天をついて青く光った。それを充分感じ取るとわたしは意を決した。そして大きく振りかぶって全身で空を切った。
 ハッとした。 
 部屋の空気が変わった。
 2度、3度と気の済むまで気合いを入れて剣を振るった。
 荒くなった息をついてしばらく気が収まるのを待ってから、静かに剣を腰に納めた。
 さっきの巨大化したエゴ坊は消えていた。
 けれどもなごりのようなざらざらした想いがのどにひっかかるようにまだあった。
(これでは消えない。まわりを祓ってもここにあるのだから・・。)
 自分のむねをこぶしで突くと、自分でも思ってもみなかった想いにとらわれた。
(これしかないかもしれない・・・。)
 ぽっとともった小さな灯はみるみるうちに確信のようなものに育った。
 
 わたしは今度は意識だけで剣を抜いた。そしてその剣を中空に浮かせた。そしてそれを自分の頭上まで持ってくると、そのきっ先をまっすぐわたしの脳天に向けた。
 その青く光り輝く“青光剣”に今のすべての願いを込めた。
 そして、一瞬息を詰めて天から落ちるいかづちのように、躊躇なくまっすぐ地に向けて落下させた。
 そこには光る剣の柱に中心をただ貫かれるわたしがいたーーー。
(切った。)
 同時に潮が引くようにわたしのまわりから泣きさざめいて散り行くような無数の影を感じた。それらは哀れなほどせつないものだった。
 わたしの目から涙が茫と流れた。
 それらはなんなのか、憎々しいほどの強大な闇の印象は影をひそめ、弱々しく哀れだった。せつなさがのどをついた。
 なにかがわたしの腑に落ちた。あれはわたしとともにある意識の歴史の記憶のようなしかし実体のあるもので、それと自分を分けることが困難で無意味であることがその時悟らされたのだ。
 彼等はわたしたちの歴史なのだ。
 わたしたちの哀しみはわたしたちを分かつ時にすでに生まれた。
 この器に分かたれることがまずそもそもの最大の哀しみでもあるのだ。
 赤ん坊は元いた場所から分断されて哀しくて泣く。
 戦いをやめず、自分のことしか考えなくなることを繰り返すこの性(さが)はどこから来たのか。はるかな過去からの失敗に失敗を重ねてきたこだわりのエネルギーを感じた。
 しかしそれはどこかでほんとうは解き放たれ脱皮したがっているようにも思える。
 今の人類が始まった頃から、いやもしかするとそのもっと前からのこの影は人知れず脈々と生き続け現在のひとの人生にもからんでいるのかもしれない。
 世界が始まった時から仕込まれたこれがその影?
 この涙は“闇である”自分自身を切った痛みでもあるのだろう。霧散する影を哀れにいとおしくさえ想った。
 けれども決めなくてはならない。
 哀しみに生まれて喜びに向かっていることを自覚することを。あの空を信じることを。
 決心することによってしか自分にこの剣は突き立てることは出来ないのだ。
 この剣を立てることは浄化を意味する。水道管のさびを流すように。
(やっとわかった。)
 わたしは涙にむねあたたまりながら自分の影に感謝した。
(これをするのですね。)
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