ナナン

ナナの声をきく者 ナナの目でみる者とは?新しい神話が紡がれる――    〜2006/10/5〜11/23*全50話〜

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火打石

 半年後。
 わたしはまたアメリカに向かう機中にいた。
 一冊の本を手にしてその美しい表紙の絵に見とれていた。
 横に座ったイサクがそれを見て言う。
「こんなに早く本になるとはな。」
 そう、それはナキアの銀河の絵を表紙に使った“ナナ”とわたしたちの本だった。
 ナキアの絵は好評で、本屋に積むと目を引いた。
 イサクはあれからわたしのあとを追うように大学を辞め、わたしを手伝ってくれている。
 マリさんは日本での自分の務めを果たしたように感じたのか、ハワイに帰っていった。
 今度はハワイで会う約束だ。そしてイサクのひいおじいさんのかかわりのある聖地に案内してくれることになっている。
 そうしてイサクの環は滞りなく通り、新たな始まりが始まるのだろうか。
 町に着いた。
 迎えに来てくれていたワシリーの運転であの並木を通って屋敷に到着すると、まるで初めて来た時のように2階の窓からスナイが手を振っていた。まるでここでも何かが一巡したような光景だった。
『見て。これが本よ。出たばっかりの。』
 リビングで荷物を置くのももどかしく、スナイに本を手渡した。
 スナイはにこにこと笑った。
『英語版の準備にも入ってるから、出来たら渡すわね。』

 始まりの時と同じレーネンとワシリーとスナイと5人でテーブルを囲んだ。
『スナイと話したかったんだけど、わたしが富士山の麓で祓ったあの闇はなんなのかしら?』
『・・・。人には肉体をはみでているからだがあるとは聞いたと思うけど。』
『ええ。』
『そのからだに傷の記憶が蓄積されるのは言ったっけ?』
『いえ?』
 スナイは目の前のわたしに手のひらを向けてわたしの前方1mくらいの空間をなぞった。
『あ・・。』
『感じる?』
『なんともいえない、触られたくない感じがする。』
『ここに傷跡があります。』
 うなずいた。
『今、まっすぐ源の方をみて溶かします。』
『ああ、ほんとだ、春のような感じがする。もう平気。』
 スナイは手を降ろすと言った。
『もちろんほんとうの中心の、源とつながっている記憶のかなたの一番奥底は無傷です。でも、わたしたちがまとっている肉体をはみでたからだにはひとつひとつの感情の歴史が記録されている。』
『?』
『ナナが剣で祓ったのはその部分です。』
『ああ、』
 イサクが問うた。
『それは触れたり溶かしたりできるものなのかい?』
『“ナナ”が言っていたかもしれない。わたしたちの“想い”というのは惑星を生み出すほどのエネルギーがあるのだと。わたしたちが源と直接つながり、道から逸れずにまっすぐそそぐエネルギーは、岩をも溶かすほどおそれおおいものです。』
『それがそうは出来ないっていうのはほとんどが道から逸れているということ?』
 レーネンが微笑んで言葉をはさんだ。
『順番と過程がある。わたしたちはまだよちよち歩きの赤ん坊だからね。過程は大事なんだ。』
『わたしはやり過ぎてない?』
『どう思う?やむにやまれぬ過程を踏んできたかい?』
『・・そう。そうでなければならなかった満ち潮のようなごく自然な想いがある。ここでしかないここにいることをはっきりと感じている。』
『だったらそうなんだろう。』

 庭を歩いた。
 イサクが並んで歩いている。
 星が降るようだ。
「火花は燃え広がるのかしら?」
「火打ち石かい?」
「わたしは前にこうしてイサクに言ったわね。わたしたちは火打石を授かったヤマトタケルじゃないかって。」
「ああ。」
「訂正するわ。」
「?」
「わたしたちだけじゃないのよね。」
「ヤマトタケル?」
「あちこちで火は上がっている。無数のヤマトタケルがいる。そうでしょ?」
「そうだな。」
「どこが出所でもかまわないわ。燃え広がる炎がこの星をおおい尽くすなら。」
 満天の夜空を見上げた。
 ひときわ明るく輝くのはきっと、金星だろう。
 大気に溶け込んだわたしの中心に、星々の祝福のさんざめく音色が打ち寄せる波のように響き渡ってきた。

                         〜完〜
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