ナナン

ナナの声をきく者 ナナの目でみる者とは?新しい神話が紡がれる――    〜2006/10/5〜11/23*全50話〜

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ワシリー

 来る時は背後になって気付かなかったが、外へ出ると”ナナ”の山をうつくしく仰ぐこれ以上ないつくりの庭だった。
 朝に夕にこの景色を拝むというのは、どんなに即物的な人間であれなにか感じずにはおれなくなるのではないかとすら思えた。
 わたしはワシリーの笑顔に惹かれていきなりきいてしまった。
『あなたはレーネンとどうやって結ばれたのですか?』
 ちょっと可笑し気に小さく笑うとワシリーは言った。
『わたしはカリフォルニアに住むいわゆるよくいるアメリカ人でしたけど、からだをこわして絶望していた時にこの人と出会って生き返ったんです。』
 レーネンははにかむようにいたずらっぽく声をたてずに笑っていた。
『その時、いままでの自分は死んで全く新しいみずみずしい自分に生まれ変わりました。そして気がついたらここにいてスナイを生んでました。』
『僕だけが母の子なんです。』
『えっ?』
『上の兄の母は亡くなりました。そのあと父と母が再婚して生まれたのが僕。』
『妹さんは?』
『事情があって両親が引き取った養女です。でも実の兄妹みたいに仲がいいけどね。母もナナンの僕を生むために引き寄せられた運命の人です。ルカックの家は一度もナナンが出なかったことはないんです。』
『運命、か・・。』
 低木の葉裏が風にひるがえって光った。
 金髪のこの女性は一見こういう文化には無縁にみえ、スナイの母ときいたときに意外な感を覚えたのは事実だった。
 けれどもたましいの役割は人の先入観やボーダーを超えているのだということをワシリーはまるで実例として今ここに目の前に現わしてくれているようだった。
 そもそもボーダーというのはないのだ。ということをすでに「源」は私の中心に直接響かせている。
 わたしたちの勘違いと記憶喪失ははかりしれないのかもしれなかった。
『ところでこの出会いにわたしたちもとても興味があるのですが、”ナナ”のメッセージというのは具体的にはどういうものなんですか?』
『そう、まずは登ってもらうのがいいかもしれません。”ナナ”の山に。』
『登れるの?』
『だれでもというわけじゃありませんが、あなたがたなら。僕は毎朝登っています。あなたなら直接メッセージも受け取れるかもしれない。』
『スナイは毎朝登って何をしているの?』
『お祀りです。日本にもあるでしょう?感謝を捧げます。そしてその時にメッセージを受け取ります。』
『儀式のようなものはあるの?』
『はい。清めの儀式はあります。それはやってもらいます。』
『当主としての役割は毎朝の登拝とあとは?』
『普段は町のひとの相談にのります。』
『相談?』
『迷っている時に情報を提供するんです。』
『お告げってこと?』
『はははは。僕らはリーディングっていいます。』
『そのときはあなたはどういう状態なの?自分の意識はあるの?』
『意識はありますけど自分のはすみっこのほうに置いて通路になります。』
『通路?』
『クリスタルのように透明でいないと情報がゆがむのでじぶんはしーんとして横にいます。』
 わたしはちょっと息をつぎたくなってとなりのワシリーに水をむけた。
『あなたはレーネンやスナイのこういうことはごく自然に受け取れますか?』
『モチロンはじめにレーネンに会った時はなに言ってるんだろうと思いましたよ。そんなことには全然興味なかったんです。でもある日自分でもそういうことがあったら受け入れざるをえないでしょう?』
『リアリイ?あなたもそうなったんですか?ある日を境に?』
 うなずきながらワシリーは笑っている。
 うーんと腕を組んだ。
 イサクが可笑しそうにつぶやいた。
『それをいえばナナだってなんだか立派な経験してたよなア。それもごく最近。ゆうべだっけ?』
「あれはでも寝ている間。半信半疑よ。」
 思わず日本語で返事してしまったがスナイはすかさず会話に入った。
『ナナ、本当に?半信半疑?そうじゃないでしょう?』
 うっと詰まって一息ついてから答えた。
『・・ごめんなさい。ほんとはわかってるの。そうです。そう。事の大きさについてけなくてちょっとだだをこねました。え?あなた日本語わかるの?』
 ニコニコしているスナイをみて観念した。
「イサク、スナイは言葉で会話してないわ。」
 イサクは黙って降参の仕草をした。
 ルカック家の人々は愉快に、思いやり深く笑った。
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