ナナン

ナナの声をきく者 ナナの目でみる者とは?新しい神話が紡がれる――    〜2006/10/5〜11/23*全50話〜

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ナナの山へ

 チーズののったライ麦パンやオレンジで軽い昼食をとり終えると、スナイの案内でナナマウンテンに登ることになった。
 ルカックの屋敷から”ナナ”の山につづく小道がのびていた。
 大きな石がふたつ並んだ入り口のようなところの手前に、井戸があった。
 そこには東屋があって祭壇がある。
 スナイは井戸の水を汲んで手を浸し、その手を振ってわたしたちに滴をかけ、そこに捧げられている木の枝をとった。
『清めの儀式です。リラックスしてください。この聖なる木を焚いた煙はあなたがたの様々な滞りをクリアーにする作用があります。ただゆだねていてくれればだいじょうぶです。』
 そういってポケットから火打石のようなものを出して打った。
 火花が散り、皿に盛られたおがくずのようなものに火が移った。
 そこにその枝をかざすと白い煙が立ちはじめる。はっかのようなかすかな香りがした。
 わたしはその瞬間音を立てるようにあきらかにその場の空気が変わったのを感じた。
 なんと説明したらいいのか、ふわっとかるくなり空気がきらめくようだった。
 でもそれは視覚や触覚といった五感で受け取ったのではなかった。
 今までにも様々な機会にお清めのようなものに立ち会ったことはあった。ネイティブ・アメリカンの瞑想のための儀式や神社のお祓いなど。けれどもそれらはたんなる儀式だと思っていた。
 ほんとうに場の浄化をしているとは思っていなかったのだ。
 けれどもそれはほんものの手続きだった。
 おそらく他での儀式も実はそうなのかもしれない。きっとわたしのなにかが変わったのだ。
 受け取るために変わらざるを得ないその時がきたのかもしれない。
(時は「時」自身がその時を選ぶ。)
 レーネンの言葉がよみがえってきた。
 スナイは澄んだ瞳で枝を持ってわたしたちのまわりを廻った。わたしたちは聖なる煙に包まれた。
 わたしたちの目の前で止まるとスナイは片手を私たちの頭にかざしきいたことのない言葉をゆっくり唱えると言った。
『はい。オーケーです。それでは行きましょう。』
 神聖な気持ちになった。イサクもそうらしい。口を開かなかった。
 わたしたちは石段を一歩一歩踏みしめて細くて急な坂を登り始めた。
 息が荒くなってきた頃ちょうどいい具合に踊り場がある。スナイは慣れているので息も上がっていないが、ふりかえってわたしたちのペースに合わせてくれた。
 30分ほど登ったところでひらけたところに出た。そこからは町が一望出来た。
 さえぎるものがないのではるかかなたの山並まで望める。
 スナイはそこで立ち止まると遠くを見るまなざしで言った。
『ここからの夕日は素晴らしいんです。この世界はなんてうつくしいのかっていつも思います。』
 息を整えながらその横顔を見ていてふと思った。
(彼はいったいほんとうにひとなんだろうか?まるでどこか地球じゃないところからやってきた異邦人みたい。)
 スナイはわたしのつまらない思考に気がついたようでにこっとした。
『僕は人間だよ。高校にもいってるし、友達もいる。失恋だってするし、試験勉強は大嫌いさ。』
『試験勉強なんかするの?』
『もちろんさ。でないと卒業出来ないもの。』
 くっくっくっくっとイサクが笑った。
『なんのはなししてるんだ。せっかく神聖な気分でいたのに。』
『ごめん。』
『もうすぐそこです。ここからはたしかに神聖な気分になってもらいます。』
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